なぜ自家焙煎珈琲屋なのかを考えてみました。
これは僕のキャリアと関係する話でもあります。
僕はいわゆる飲食業界というところでずっと仕事をしてきましたが、
この世界へと足を踏み入れるきっかけになったのは「カルアミルク」
じゃないかと思っています。そう、
カルーアというコーヒーリキュールと
ミルクを割って作るあの甘口のカクテルです。
大学生の時に最初にアルバイトをしたカラオケ屋のドリンクのメニューに
このカルアミルクがありました。その当時はとても流行っていたカクテル
だったので、もちろん知ってはいましたがそれはカルーアとミルクが
しっかりと混ぜられたコーヒー牛乳のような色合いのカクテルでした。
でも、このカラオケ屋での作り方はカルーアとミルクを混ぜずに、
まずはカルーアをグラスの底に注ぎ、次にミルクをカルーアの上にのせるように
ゆっくりと注ぎます。そうするとカルーアの黒とミルクの白がくっきりと分かれて
2層になります。
これは使用する材料の比重を利用して層を作りだすプースカフェスタイルと
いうものですが、この2色のパキッとした色合いとこれを作り出す工程(カクテルの技術)
にすっかり夢中になってしまいました。
そんなカクテルの魅力に魅せられてバーの世界へと飛び込んで
いくわけですが、(単純ですね。。)僕の飲食業界のキャリアのスタートと
いうかバックグラウンドはやっぱりバーテンダーなんだと思います。
だからではないですけど食べ物(料理)よりも飲み物への思い入れが強いんです。
一時は飲み物のスペシャリストになりたくてバリスタ(エスプレッソ)やソムリエ(ワイン)
なんかもやってきました。特にソムリエには本当に憧れた時期がありました。
カクテルは自分が作るわけですからおいしいと言ってもらえればうれしいのは当然です。
同じようにワインもセレクトしたものがお客さんの好みや、その時の料理や、その時の
雰囲気にバシッとはまったりしておいしいと言ってもらえると、なんというか自分だけではなく、
自分がセレクトしたワインも認めて貰えるわけです。
ワインはカクテルと違って物質的(商品)な要素があるので、お客さんと目に見えて
そのワインの背景や価値観を共有することができます。
1本のワインの向こうには作り手であるブドウ農家さんや醸造家がいて、
こちら側には僕とお客さんがいてつながりができるわけです。
そんなことを考えていると瓶詰されたワインは商品ですが、もともとは野菜や果物と同じで、
ぶどうから作られる「農産物」でもあるということに気付かされます。
でワインの話から、なぜの話に戻ると、カルーアがコーヒーだから珈琲屋って
いうわけではなくて、コーヒーもワインと同じ農産物だという話です。
もちろん全てのものには原料があるので、全て農産物だということもできます。
ビールだって紅茶だってそうです。
ワインは原料となるブドウの果実の出来で味のほとんどが決まります。
なのでソムリエは作られるブドウがどんな品種でどのような気候、
土壌で作られたかを知る必要があります。
コーヒーもコーヒーの木の果実がどこの国でどのような風土で育てられ、
コーヒー生豆(果実の種子)がどのような精製方法で作られるかに
よって味わいは変わってきます。そう、ワインもコーヒーも原料ありきだと
いうところに大きな共通点があります。
こうなってくるとだんだんと興味は自然と原料に向かっていくわけで、
そうこうすると畑とか原料が作られる現場を訪れたくなって、そのうち自分も
作ってみたい衝動に駆られたりもして、みたいなことになるわけですが。。
それで最終的になぜコーヒー(自家焙煎珈琲豆)にこうも魅かれるかというと、
コーヒーはコーヒーの木を育てることはできませんが、原料に近い状態、
つまりコーヒーの生豆の状態から参加できるところなのかなと思うわけです。
例えばカクテルで言うと使用する素材をいいものにすればよりおいしくなります。
でもこれは自分の力ではなく素材の力がものをいいます。(もちろん素材をセレクトする眼
(正確には味覚ですが)とおいしく仕上げる技術があってこそなんですけど。)
乱暴な言い方をすれば誰が作ってもおいしいものはできます。
またワインは専門的な知識を使って、星の数ほどある銘柄の中、価格もピンから
キリまである中から、その飲まれるシーンに合わせて選び出す作業(これは音楽の
選曲にも近いものがある気がする)がひとつの醍醐味ではありますが、
そのワインの味わいを作り出す工程のなかには参加できません。
コーヒーは作ってもらった原料のコーヒー生豆をその豆の個性が一番出せる状態に
焙煎してあげて、それに合わせた方法で抽出する。また逆に自分の思い描くコーヒーの
味わいがあって、そこから逆算して原料を選ぶということもできる。
この流れというか思考の工程が自分にはすっと落ちるところがあるんです。
自然というか、無理がないというか。なんでだろうとそういうことを考えているうちに
コーヒーってカクテルの世界とワインの世界の両方の要素があるなと。
だから自分はコーヒー、とりわけ自家焙煎珈琲というものにこだわるのだと。